二 ・ 貯める力 ・ SAVE
収入を増やすより、支出を下げるほうが早い。
手元に残るお金は「入ってきた額 − 出ていった額」でしかありません。入ってくる額は相手が決めますが、出ていく額は自分で決められます。だから先に支出から手をつけます。そして手をつける順番は、三つの原則に行き着きます。
- 固定費を、先に下げる
- 戻ってこないものに、先に手を打つ
- 残してから使う。残したお金には、働いてもらう
なぜ「貯める力」が二番目なのか
時給を100円上げるのは、交渉と実力と運が要ります。でも毎月の通信費を3,000円下げるのは、今日1回の手続きで終わります。そして下げた分は、何もしなくても翌月からずっと残ります。
ここが「貯める力」の正体です。がまんではありません。一度直せば効き続けるものを、先に直す。毎日のコーヒーを我慢するより、家賃・通信費・送金手数料を一度見直すほうが、額も大きく、つらくもありません。
そして外国人には、日本人にはない「貯める力」の穴があります。母国への送金です。何度も繰り返すものなので、1回の手数料の差が、何年も積み上がります。
固定費を先に下げると、何が残るのか
毎月かならず出ていくお金には、二種類あります。食費や交際費のように、その月の行動で増えも減りもするお金。そして、家賃・通信費・光熱費・保険料・送金手数料のように、一度決めたら、何もしなくても毎月同じ額が出ていくお金です。後者が固定費です。
仕組みは単純です。変動費は、がまんを毎月やり直さないと効きません。固定費は逆で、手続きを一回すれば、その効果が翌月以降も続きます。たとえば毎月3,000円を下げられたら、手続きは一回でも、一年で3万6千円です。がまんは続けるほど疲れますが、手続きは終われば終わりです。だから先に直すのは、いつも固定費です。
順に見ると、固定費の中でも効き方が違います。
- 家賃——いちばん大きく、いちばん変えにくいお金です。変えられるのは、住む場所を決める最初の一回だけ。日本の賃貸は入る時に大きなお金がかかるので、初期費用がかからない住み方をシェアハウスの記事で比べられます。家賃が他の支出より重い現実は、留学生の生活費の記事で、国の調査の実額で確かめられます。
- 通信費——スマホは一回替えれば毎月効き、解約金のかからないプランもあります。クレジットカードがなくても契約できるかどうかが最初の壁なので、格安SIMの記事で、自分の使う量に合うプランを先に選べます。家のネットは家のインターネットの記事に、工事の要るもの・要らないものと、住む年数で答えが変わる理由があります。
- 光熱費——日本では2016年4月から、家庭も電力会社を自由に選べるようになりました(資源エネルギー庁の料金メニューの説明)。入居のときに何を確かめれば高いガスを避けられるかは、電気・ガス・水道の手続きの記事にあります。
- 送金手数料——母国への仕送りは、毎月くり返す固定費です。1回の差が小さく見えても、くり返す回数をかけると大きくなるので、母国への送金の比較記事で、送る前に自分の金額の受取額を並べる方法を読んでください。
この順番を飛ばして、コーヒー代や交際費から削り始めると、つらさに対して残る額が小さくなります。固定費は、一度下げれば、下げたことを忘れていても効き続けます。
戻ってこないお金に、先に手を打つ
同じ一万円でも、使い道によって行き先が違います。預金は、自分の手元にあるお金の置き場所が変わっただけで、必要になれば戻ってきます。一方、戻ってこないお金があります。手数料、家賃、利息、そして申し出なければ消える制度の権利です。
戻ってこないお金は、取り返せません。だから、増やす工夫より先に、まず消える口を小さくします。日本での例を、四つ挙げます。
- 手数料——送金のたびに、銀行の手数料と為替レートへの上乗せが消えます。送金の記事には、三菱UFJ銀行の公式の手数料表で確かめた項目が書いてあり、10万円を送る例で消える額を見られます。
- 払いすぎた費用——退去のとき、普通に住んで生じた汚れまで請求されても、払い終えたお金は戻ってきにくいものです。退去費用の記事は、請求書を見たときに「根拠を見せてください」と言える基準を、国のガイドラインで示しています。
- 利息——クレジットカードのリボ払いは、残した金額に毎月の手数料がかかります。使う前に何が起きるかは、クレジットカードの記事で、公式の実質年率といっしょに読めます。
- 申し出なければ消える権利——国民健康保険料の軽減は、所得がゼロでも申告をしないと始まりません(国保料の軽減の記事)。年金を払ってから帰国する人の脱退一時金は、日本に住所がなくなった日から2年以内に請求しないと、請求できなくなります(日本年金機構の案内)。手続きの流れは脱退一時金の記事に、払うのが難しい月の免除は国民年金の免除の記事にあります。
四つに共通するのは、知らなかった分は、誰も自動で戻してくれないことです。逆に言えば、知っているだけで防げる分でもあります。
利息のいちばん大きな入り口は、借金そのものです。この力の原則は、生活費や買い物のために借金をしないことです。足りないときは、借りる前に固定費を下げ、返さなくてよい制度を探します。リボやキャッシングの手数料がどれほど重いかと、借りずに頼れる公的な窓口は、お金が足りないとき借金しない方法にまとめています。
『バビロンの大富豪』は、貯めることをどう説明したか
この力の考え方の出発点の一つは、ジョージ・S・クレイソンの『バビロンの大富豪』です(五つの力の土台でもあります)。古代バビロンを舞台に、お金の知恵を寓話の形で語る本で、日本の制度や統計の裏づけではありません。ここでは、この本が何を言っているかだけを、私の言葉でまとめます。
- この本では、稼いだお金の一部、目安としておよそ1割を、使う前に取り分けるよう説明しています。使った残りを貯めるのではなく、先に取り分けて、残りで暮らす順番です。
- 残りの金額で暮らすために、必要なものと欲しいものを分けて支出を収入の範囲に収める、と説明しています。
- 取り分けたお金は眠らせず、働かせるよう説明しています。ただし、その置き場所は、元本を失いにくいところを選ぶ、という考え方です。
数千年前の話が、今の話と同じ形をしているのは、仕組みが同じだからです。収入が入った瞬間に、使う分と残す分を決めてしまえば、意志の強さに頼らずに済みます。1割という数字は本の中の目安で、日本の法律や公式な基準ではありません。自分の収入に合う割合は、固定費を下げた後で決めても遅くありません。
日本の制度の上では、どんな形になるか
「先に取り分けて、働いてもらう」を日本の制度の上で形にした例が、NISA(少額投資非課税制度)です。金融庁のNISAの説明によると、2024年からの制度では、つみたて投資枠が年間120万円まで、そこで得た運用益が非課税で、非課税で持てる期間に期限はありません。毎月に直すと10万円ずつです。上限があるだけで、その額まで入れる義務はありません。
気をつけたいのは順番です。投資は値下がりして元本を割ることもあるので、先に固定費を下げ、手元に生活費の余裕を作ってから考えます。向く人・向かない人は一人ひとり違うため、この柱では仕組みの紹介にとどめます。日本に住む外国人が口座を作るときに何が起きるかは証券口座とNISAの記事に、帰国するときの扱いまで書きました。増やす考え方は増やす力で扱います。数字は2026年10月9日に金融庁のページで確認したもので、制度は変わることがあるため、始める前に最新のページを見てください。
この力は、日本を出ても使えます
ここが大事なところです。この記事に出てくる会社の名前も、料金も、制度の名前も、国が変われば全部変わります。時代が変われば、日本でも変わります。
でも、下にある考え方は変わりません。
- 一度直せば毎月効くものから直す(固定費が先、変動費はあと)
- 戻ってこないお金に、先に手を打つ(手数料・利息・申し出なければ消える権利)
- 使ってから残すのではなく、先に取り分けてから使う
- 繰り返すものほど、1回あたりの差が積み上がる(送金・通信・保険)
- 「安い」より「自分が実際に使う分だけ」を選ぶ
これは母国に帰っても、そのまま使えます。通貨が変わっても、物価が変わっても、制度の名前が変わっても、この順番は変わりません。バビロンの本が数千年前の話でも通じるのは、そのためです。そして、あなたの子どもや孫にも渡せます。渡せるのは会社の名前ではなく、この順番のほうです。
貯める力の記事 35本
支出を締めたら、次のステップへ
出ていく額を下げたら、次は入ってくる額を上げる「稼ぐ力」です。外国人の場合、稼げる額は実力だけでなく在留資格でも決まります。そこを知らずに働くと、稼ぎどころか在留資格そのものを失います。