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最終更新:2026年10月
この記事の結論(Summary)
- 退去費用の正体は「原状回復費用」。普通に住んでできた傷み(自然損耗)は大家さんの負担で、あなたが払うのは、わざと・不注意で傷めた分だけです。部屋を新品に戻す必要はありません。
- 傷めた場合も、新品の値段は払いません。壁紙(クロス)は6年住めば、価値はほぼ1円まで下がります(減価償却)。
- 直すのは傷めた部分だけ。「1か所の傷で部屋全体を張り替え」は払いすぎです。
- 身を守る3点:退去前に部屋の写真/その場でサインしない/やり取りは記録が残る形で。
- 高いと思ったら「根拠(見積書・写真)を出してください」と伝えます。根拠を見てから、払うかどうかを決めれば大丈夫です。
これが分かると、退去の日に「根拠を見せてください」の一言が言えて、払わなくていい分を払わずに済みます。

退去費用は、ルールを知らないと、払わなくていい分まで払ってしまいやすいお金です。この記事では、払うもの・払わなくていいもの・言い返し方を、国のガイドラインに沿って説明します。
退去費用の正体は「原状回復」——全部を新品に戻すお金ではない
退去費用とは、正しくは原状回復費用(げんじょうかいふく ひよう)のことです。「借りたときの新品の状態に戻すお金」と思われがちですが、違います。民法621条は、借りた人が直すのは住み始めてからできた傷だけで、ふつうに使ってできた傷みと、年月による古びは除く、と決めています。国が出している原状回復ガイドライン(国土交通省)も、同じ考え方で負担を分けています。

つまり「普通に住んで出る傷みは無料、自分で傷めた分だけ有料」。壁紙の日焼け、家具を置いた床のへこみ、画びょうの小さな穴——これらは家賃に含まれているので、あなたが払う必要はありません。反対に、火事や水漏れのように自分の不注意で部屋を大きく傷めたときは、大家に払う責任が残ります。設備が古くなって壊れたときは逆で、住んでいる間の修理代も大家が払います。入居のときに求められる借家人賠償責任保険は、その支払いに備えるものです。
よくある例を表にまとめます(国土交通省のガイドライン 別表3・25ページ)。
| 状況 | 払う人 |
|---|---|
| 日光で色があせた壁紙 | 大家 |
| 家具を置いた床のへこみ | 大家 |
| 壁の画びょうの穴 | 大家 |
| 寿命で動かなくなった設備 | 大家 |
| タバコのヤニで変わった壁紙の色・臭い | あなた |
| 飲み物をこぼして、手入れせずに残ったシミ・カビ | あなた |
| 引っ越しの作業でつけた引っかき傷 | あなた |
| わざと・使い方を誤って壊したドアや設備 | あなた |
壊してしまっても、新品の値段は払わなくていい(減価償却)
ここが一番お金に直結します。仮に壁紙を破ってしまっても、払うのはその壁紙の「今の価値」の分だけです。国土交通省のガイドライン(12ページ・別表3の26ページ)は、壁紙(クロス)やカーペットを6年で価値が1円になるものとして扱い、住んだ年数が長いほど、借りた人の負担を小さくしています(減価償却)。

例:入居6年後に壁紙を破っても、その壁紙の価値はほぼ1円です。だから「新品の壁紙代を払え」という請求には、ガイドライン上の根拠がありません。
ただし、年数を考えないものもあります。同じガイドラインの別表3(26ページ)では、フローリングの一部の補修、畳の表面(畳表)、ふすま紙・障子紙、なくした鍵の交換は、住んだ年数に関係なく、傷めた人が費用を払うとしています。エアコンなどの設備は、それぞれの耐用年数に合わせて価値が下がります。
また、6年を過ぎた壁紙でも、わざと落書きした跡を消す工事費や人件費は、借りた人の負担になることがあります(ガイドライン12ページ)。価値が1円になっていても、何をしてもいいわけではありません。
直すのは「壊した部分だけ」——全面リフォームは不要
よくあるトラブルが、一部を汚しただけなのに「全面張り替え」を請求されることです。ガイドラインの別表3(26ページ)では、負担する範囲はこう決まっています。
- 壁紙(クロス):㎡単位が基本。多くても、傷めた所を含む壁1面まで(部屋全部ではない)
- フローリング:㎡単位が基本。傷が何か所にも広がったときだけ部屋全体
- 畳:1枚単位。傷めたのが何枚かなら、その枚数だけ

例外はタバコです。ヤニで部屋全体の壁紙の色が変わったり、臭いがついたりしたときだけは、その部屋全体のクリーニングや張り替えが借りた人の負担になります(同じ26ページ)。それでも、払うのは減価償却したあとの金額です。
傷が1か所なのに「部屋全体のリフォーム代」を丸ごと請求されたら、それは払いすぎのサインです。
普通の汚れでも、放っておくと自分の負担になる(手入れ不足)
冬の朝、窓に水滴がびっしりつく。拭かないまま春になったら、カーテンの裏の壁が黒くなっていた——ここで話が変わります。結露そのものは建物のつくりで起きることが多く、あなたのせいではありません。それでも国土交通省のガイドライン(別表3・25ページ)は、大家に知らせず、拭き取りもせずに広がって壁を傷めたカビ・シミを、借主の負担としています。分かれ目は汚れの種類ではなく、住んでいる間に手入れと連絡をしたかどうかです。
同じ表で、手入れ不足や放置のために借主の負担とされているのは次のものです。
- 結露を放置して広がった壁のカビ・シミ(大家に知らせず、拭き取りもしなかった場合)
- 台所の油汚れ・すす、ガスコンロ置き場や換気扇の油汚れ(ふだんの掃除をしなかった場合)
- 風呂・トイレ・洗面台の水あか・カビ(掃除や手入れをしなかった場合)
- エアコン(クーラー)の水漏れを放っておいて傷んだ壁
- 冷蔵庫の下のサビを放っておいて汚れた床
- なくした・壊した鍵の交換
反対に、同じ表で大家の負担とされているものもあります。ふだん掃除をしていた部屋の専門業者によるハウスクリーニング、タバコなどの臭いがついていないエアコンの内部洗浄、なくしても壊してもいない鍵の交換です。ただし契約書に特約があるときは、次の章の3つの条件で確かめてください。
いま住んでいるなら、できることは2つです。結露や水漏れに気づいたら拭いて、大家か管理会社にすぐ知らせる(メールなど記録が残る形で)。台所と水回りは汚れをためない。退去の日にはもう直せないことも、住んでいる間なら防げます。
契約書の「特約」があっても、無効になることがある
契約書に「退去時のハウスクリーニング代は借りた人が払う」などの特約(とくやく)が書いてあることがあります。特約で、ふつうの傷みの修理まで借りた人に払わせることもできます。ただし国土交通省のガイドライン(7ページ)は、そうした特約が有効になるには、次の3つがそろう必要があるとしています。どれかが欠けていれば、効力を争えます。
- 特約が必要な理由があり、金額が高すぎない
- ふつうより重い負担になると、借りた人が分かっていた
- 借りた人が、その負担を引き受けると意思を示した(サインなど)
同じページで紹介されている最高裁の判例は、借りた人が払う「ふつうの傷み」の範囲が契約書に具体的に書いてあるか、口で説明されて合意したことが必要だとしています。ガイドラインは、いくらぐらいかかるのか、単価などを書いておくことも、トラブルを防ぐのに欠かせないとしています。3つがそろっていても、必ず有効とは限りません。同じページは、消費者の利益を一方的に害する契約の条項は無効とする消費者契約法10条にもふれています。

「なんとなく書いてあった」「何が対象で、いくらなのか分からない」なら、その特約は無効になる可能性があります。サインする前に、対象と金額を必ず確かめましょう。契約の基本は日本の賃貸契約のしくみで解説しています。
退去費用の相場はいくらですか
国や自治体が出している「退去費用の平均」はありません。金額は、部屋の状態と、国土交通省の原状回復ガイドラインが決めている負担の分け方で決まります。
ネットには「相場」の数字も出ていますが、気をつけてください。相場より安いから正しい、高いから不当、という話ではありません。金額を決めるのは平均ではなく、次の一点だけです。
あなたが壊したものか、そうでないか。国土交通省のガイドラインは、ふつうに住んでいて生じる傷みと時間による古びは、借主の負担ではないとしています。日焼けした壁紙、家具を置いた床のへこみ、画びょうの穴——これらは本来、あなたが払うものではありません。
だから請求書が届いたら、合計ではなく内訳を1行ずつ見てください。その行は、あなたが壊したものか、ふつうの傷みや古びか。壊した分でも、払うのは減価償却したあとの金額です。
次のような請求は、特に気をつけてください。
- 小さな傷が1か所なのに、部屋全体の張り替えやリフォームの代金
- 契約書に根拠のないクリーニング代
- 内訳がなく、合計の金額だけ

敷金が返ってこないときも、見るところは同じです。敷金は預けたお金です。民法622条の2により、大家は、未払いの家賃や原状回復の費用など、あなたが払うべき分を差し引いて、残りを返さなければなりません。戻ってこないなら、差し引かれた内訳のなかに「あなたが壊したものではないもの」が入っていないかを見てください。日焼け・へこみ・画びょうの穴が並んでいたら、そこは本来あなたの負担ではありません。
高すぎると思ったとき、払えないとき
請求書を見て、手が止まることがあります。
1. 内訳をもらってください。「原状回復費用一式」としか書いていない請求は、それだけで確認する理由になります。何を、どこを、いくらで直したのか。明細と、できれば写真も求めてください。頼むのは失礼ではありません。
2. 通常損耗が混ざっていないか見てください。壁紙の全面張り替え、ハウスクリーニング一式、畳の全交換。この記事で見てきたとおり、これらは全額を借主が負う性質のものではありません。ここで金額が動くことが実際にあります。
3. 一度に払えないなら、そう言ってください。管理会社によっては分割払いや支払いの猶予に応じることがあります。黙って滞納するのがいちばん悪い結果になります。連絡が取れないことのほうが、相手にとっては困るからです。早く言うほど、話が通りやすい。
4. それでも納得できないなら、外に相談してください。消費生活センターは、退去費用のような住まいのお金のトラブルも受け付けています。全国共通の電話番号は188で、地元の窓口につながります。相談は無料です。

日本語で説明できないときの窓口
消費者ホットライン188に通訳がつくかどうかは、住んでいる自治体によります。全国どこでも多言語で受けられる仕組みには、まだなっていません。
ネパール語・シンハラ語・ベトナム語などで話せる国の電話窓口に、外国人在留総合インフォメーションセンター(0570-013904)があります。平日8時30分〜17時15分。日本語・英語・中国語・韓国語・スペイン語・ポルトガル語・ベトナム語・ネパール語・タイ語・ミャンマー語・シンハラ語に対応しています。ただし、ここは入管・在留の相談用の窓口です。公式の案内によると、受け付けるのは出入国や在留手続の問い合わせです。退去費用のトラブルは扱いません。困りごとごとに、どの番号なら自分の言語が通じるかは、困りごと別・言語別の相談窓口の早見表で確かめられます。
払えないからといって、黙って部屋を出ないでください。連絡がつかないまま滞納が続くと、保証会社を通じて記録が残り、次の部屋を借りるときに響きます。保証会社の審査は、支払いの記録を見るからです。
退去で損しないための5つの手順(守りの型)
知識があっても、手順を間違えると不当請求に巻き込まれます。この順番で自分を守ってください。

- 解約通知は、記録が残る形で送る。いつ伝えたかの証拠を残します。
- 部屋の写真を日付入りで撮る。入居したときと、家具を出したあとの退去時の2回です。日付入りの写真が、もとからあった傷の証拠になります。
- 立ち会いでは、その場で署名も支払いもしない。
- 鍵を返したことを記録に残す。
- 請求が来たら、明細と写真を求める(「明細をください」)。契約書の原状回復・特約の条項と照らして確かめる。
特に大事なのが③その場でサインしないこと。立ち会いそのものには出てください。国土交通省の原状回復ガイドラインも、貸主と借主が立ち会って部屋の状態を一緒に確かめることをすすめています。ただ、同じガイドラインの流れでは、金額の精算は立ち会いのあとに請求書が届いてから確認する段取りです。その場で金額に同意しなくても、「請求書を見てから返事します」と言えば足ります。
もし確認のサインをしてしまっていても、あきらめなくて大丈夫です。ガイドラインのよくある質問(Q14・43ページ)は、傷があることを確かめただけのサインなら、費用を払うと認めたことにはならないとしています。費用を払うと認めてサインした場合でも、特約がなければ、あなたのせいではない傷みの分まで払う理由はない、としています。
保証会社・業者から強く請求されたときの対応
日本の賃貸では保証会社に入ることが多いですが、保証会社は大家さんに家賃などを保証する会社で、あなたの味方ではありません。サインしていないのに高額な請求書が届くこともあります。次の言葉を覚えておいてください。
不当な請求への「反論のひとこと」
「この請求の根拠(見積書・入居時と退去時の写真)を提示してください。原状回復ガイドラインに沿って、減価償却後の金額と自分の負担範囲を確認したいです。」
— このように書面(メール)で伝えてください。根拠が示されない請求に、口頭だけで応じないこと。
業者は「ガイドラインは法律じゃない」と言うことがあります。確かに、ガイドラインは法律そのものではありません。ただ、ふつうの傷みと古びを借りた人が直さなくていいことは、民法621条という法律に書いてあります。ガイドラインも、冒頭で、これまでの裁判例や取引の実務をふまえてまとめた基準だと説明しています(ガイドライン「本ガイドラインの位置づけ」)。
話し合いには、契約書と写真を持っていきましょう。困ったら一人で抱えず、学校の留学生課や、市区町村の消費生活センター(電話188)に相談してください。
出典(公式):国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版:特約の条件は7ページ、6年で1円は12ページと別表3・26ページ、落書きは12ページ、負担の分け方は別表3・25ページ、負担の範囲と年数を考えないものは別表3・26ページ、確認サインはQ14・43ページ)/e-Gov法令検索 民法621条・622条の2/消費者庁 消費者ホットライン188/出入国在留管理庁 外国人在留総合インフォメーションセンター/法テラス 外国人向けの多言語情報提供サービス/国土交通省「部屋探しのガイドブック」(2026年10月18日確認)
よくある質問(FAQ)
Q. 退去費用は必ずかかりますか?部屋を新品に戻す必要はありますか?
いいえ。新品に戻す必要はなく、直すのは自分で傷めた分だけです。普通に住んでいただけなら、原状回復の負担はほとんど出ないのが本来のルールで、敷金が戻ってくることもあります。ただし、契約書に有効な特約があれば、その分はかかります。
Q. 敷金を全部差し引かれることはありますか?
差し引けるのは、あなたが傷めた分の正しい費用や、未払いの家賃など、あなたが払うべき分だけです。それが敷金より少なければ、残りは返されます(民法622条の2)。内訳を書いた明細を求めてください。
Q. タバコを吸っていました。全部屋のクロス代を請求されました。
ヤニや臭いが部屋全体についたときは、その部屋全体の壁紙のクリーニングや張り替えが借りた人の負担になります。ただし払うのは減価償却したあとの金額で、6年以上住んでいれば壁紙の価値はほぼ1円です。ヤニのついていない部屋の分や、新品の値段での請求には、根拠を求めてください。
Q. 退去の立ち会いでサインを求められました。
金額への同意のサインは、その場でしなくて大丈夫です。立ち会いには出て部屋の状態を一緒に確かめ、写真を撮っておきます。国土交通省のガイドラインの流れでも、精算は立ち会いのあとに請求書で確認する段取りです。「請求書を見てから返事します」と伝えてください。傷があることを確かめただけのサインなら、費用を払うと認めたことにはなりません。
Q. 契約書にクリーニング代の特約があります。払うべきですか?
必要な理由がない、金額が高すぎる、重い負担だと分かって引き受けていない――このどれかに当たる特約は、効力を争えます。3つがそろっていても、必ず有効とは限りません。何が対象で、いくらなのかがはっきりしない、説明もなかった、というときも無効の可能性があります。ふつうの傷みの分は、有効な特約がなければ払う必要はありません。まずは契約書を確かめましょう。
Q. すでに高額を払ってしまいました。取り戻せますか?
状況によっては、返してもらうよう求められる場合があります。請求書・内訳・領収書・写真・契約書を残して、消費生活センター(電話188)に相談してください。法テラスの外国人向けの窓口(0570-078377、平日9時〜17時)でも、法律の仕組みや相談先を無料で案内しています。
まとめ
- 退去費用=原状回復費用。ふつうの傷みと古びは大家、わざと・不注意で傷めた分だけ借りた人
- 傷めても新品の値段は払わない。壁紙は6年で価値ほぼ1円(フローリングの一部の補修・畳表・ふすま紙・鍵は年数を考えない)
- 直すのは傷めた部分だけ。部屋全体になるのは、タバコのヤニなどの例外のときだけ
- 特約は、必要な理由・借りた人の理解・引き受ける意思のどれかが欠けたら争える。3つそろっても必ず有効とは限らない
- 守りの型:写真・その場でサインしない・記録が残る形でやり取り
- 高いと思ったら「根拠を出してください」。困ったら消費生活センター(188)へ
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